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SERIES 01

【第1回】なぜ今、受注業務の自動化なのか

社内の事務は、この10年で次々にシステム化されました。それなのに受注業務だけは、いまもFAXと電話と手入力が残っています。なぜここだけ取り残されたのか。そして、なぜいま急に「自動化できる」と言われ始めたのか。答えは、AIの進化が、受注業務の難しさにようやく追いついたことにあります。その理由を、順に解いていきます。

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AIは「賢くなった」というより、人間が教えることが減ってきた

ここ数年、「生成AI」「AIエージェント」といった言葉を耳にする機会が一気に増えました。しかし、AIそのものは決して新しい技術ではありません。画像認識や需要予測、音声認識など、企業では以前からさまざまな形でAIが使われてきました。

では、昔のAIと今のAIでは、何がそれほど違うのでしょうか。その進化を一言で表すなら、「AIに仕事をさせるために、人間が事前に教えなければならないことが減ってきた」ということです。

AIの進化を、この視点から3つの段階で見てみます。

① 人間が「やり方」を教える

以前のシステムやAIは、人間があらかじめ仕事のやり方を細かく決める必要がありました。「この場所を見る」「この条件なら、この処理をする」「Aの場合はB、Cの場合はD」。一度ルールを決めてしまえば、コンピューターは高速かつ正確に処理してくれます。

一方で、想定していないパターンには弱い。書類の形式が変わったり、表記が少し違ったり、例外的なケースが発生したりすると、そのたびに人間が設定やルールを追加する必要がありました。

つまり、人間が「どうやるか」を定義し、コンピューターがその通りに実行する。これが、長らく業務自動化の基本的な考え方でした。

② AIが「内容」を理解する

機械学習やディープラーニング、そして近年の生成AIの発展によって、この関係が変わってきました。人間がすべてのパターンを事前に定義しなくても、AIが大量のデータから特徴を学び、目の前の情報が「何なのか」を捉えられるようになったのです。

例えば、同じ情報でも、書き方や配置、表現が毎回同じとは限りません。従来なら、それぞれのパターンに合わせて設定する必要がありました。現在のAIは、形式そのものではなく、その中身を見て「これは何を意味している情報なのか」を判断できるようになってきています。ChatGPTに長い資料を渡して「重要なところだけまとめて」と頼めるのも、その分かりやすい例でしょう。

人間が「どこを見て、どう処理するか」まで細かく教えるのではなく、目的を伝えれば、AIが内容を理解して処理する。ここが大きな転換点です。

③ AIに「仕事」を任せる

そして今、AIはさらにその先へ進み始めています。情報を読んで理解するだけでなく、その情報をもとに考え、判断し、必要な処理まで行う。

例えば、ある情報を受け取ったあとに、社内のマスタと照合する。条件に合うものを探す。会社独自のルールを適用する。必要な形式へ変換する。別のシステムへ受け渡す。実際の仕事は「読む」「認識する」だけでは終わりません。その後に、人が検索したり、照合したり、判断したり、別のシステムへ入力したりしています。

AIがこうした一連の処理まで担えるようになれば、AIの役割は単なる「便利なツール」から変わってきます。人間が一つひとつ作業を指示するのではなく、「最終的にこうしてほしい」と目的を伝え、仕事そのものを任せる。AIは、そんな存在へと近づいています。

教えることが減れば、自動化できる業務の境界が動く

この変化は、企業のDXにとって大きな意味を持ちます。これまでシステム化しやすかったのは、入力形式や処理方法が決まっていて、例外の少ない業務でした。

反対に、次のような業務は人間が事前にすべてのルールを定義することが難しく、長い間「人がやるしかない仕事」として残ってきました。

  • 受け取る情報の形を自社で決められず、相手次第で変わる
  • 同じ意味でも、複数の表現を用いることがある
  • 大量の情報から、正解を探しあてる必要がある
  • 判断の根拠が担当者の経験の中にあって、言葉にされていない
  • 「いつもと違う」ケースが、例外ではなく日常的に起きる

「この業務の自動化は難しい」という判断は、いまも正しいとは限らない

しかし、AIに教えなければならないことが減れば、自動化できる業務の境界も変わります。5年前、10年前に「この業務の自動化は難しい」と判断したとしても、その結論が今も正しいとは限りません。

AIの進化によって変わっているのは、単にAIの精度や性能だけではありません。

受注業務は、自動化が最も困難な領域だった

社内の事務は、この10年で次々にシステム化されました。経費精算はフォームに入力すれば済み、勤怠は打刻で記録され、契約は電子署名で結べる。ところが受注業務だけは、いまもFAXと電話と手入力が残っています。

前の節で挙げた「人がやるしかなかった仕事」の5つの特徴を、受注業務はすべて持っています。これは努力不足ではありません。受注業務には、他の事務と決定的に違う事情が2つありました。

理由① EDIもOCRも設定が重く、書式を決める取引先をコントロールできなかったから

経費精算や勤怠のルールは、自社で決められます。だから標準化でき、システム化できました。受注業務は逆です。注文書の様式、品番の書き方、送る手段(FAXかメールか電話か)、送るタイミング。すべて取引先が決めます。

「電子データで送ってください」とお願いすることはできますが、応じてもらえるのは力関係が許す一部の取引先だけです。

取引先の層と受注件数の分布(製造業・卸売業の複数社での調査値)
取引先の層社数の割合受注件数の割合
上位100社約3%約38%
残りの数千社約97%約62%

上位100社を電子化しても、件数の6割は残る

上位100社をすべてEDIで電子化しても、件数の6割は手作業のまま残ります。EDIを入れても楽にならなかった、という経験の正体はこれです。

残った手作業を自動化しようとすると、OCRもRPAも、帳票ごと・取引先ごとに設定を作る方式でした。「この座標に品番が書かれている」と人間がやり方を教える、第一段階のやり方です。設定にかかる手間が取引先の数に比例します。

上位20社なら作る価値があります。数千社分は作れません。しかも取引先が様式を少し変えるだけで壊れ、保守も比例して増えます。

理由② ベテランしかできない属人化した判断が多かったから

「Wの大」はどの品番か。この取引先の「至急」は何時までか。単位が書いてなければ箱かバラか。注文書には書かれていないことを、ベテランは記憶と経験で補いながら処理してきました。

こうした判断は暗黙知です。マニュアルには書き切れず、OCRにもRPAにも渡せない。だから人がやるしかなく、業務はその人に張り付きました。属人化の正体はこれです。

受注業務の引き継ぎにかかる期間(製造業・卸売業の複数社での調査値)
指標中央値
新任者が独り立ちするまでの期間7.2ヶ月
退職の申し出から実際に退職するまでの期間1.2ヶ月

一人前まで7ヶ月かかるのは、覚えるべき暗黙知がそれだけあるということ

育てるのに7ヶ月かかる業務を、1ヶ月の予告で引き継いでいる。ベテランの頭の中を技術で再現できないかぎり、この綱渡りは続きます。

2つの壁は、第三世代AIがすべて対応できる

ここまでを並べると、答えが見えてきます。「やり方を教えなくても内容を理解し、仕事を任せられる」第三世代AIは、受注業務が自動化できなかった2つの理由に、そのまま効きます。

実際に、注文書を第三世代AIに処理させると、次の4つができます。

  • ① 初めて見るレイアウトでも、構造を読み取る 罫線がなくても、表が崩れていても、「ここが品名、ここが数量、ここが納期」と文脈から判断して、構造化されたデータに変換します。事前に「この座標に品番が書かれている」と教える必要がありません。
  • ② 曖昧な表記を、参照しながら特定する 「Wの大」「N-320の後継」「いつもの」。こうした表記を、渡された商品マスタや過去の取引履歴と照らし合わせて、「この取引先の場合はSKU-4471の可能性が高い」と候補を絞ります。文字列の一致ではなく、意味と文脈で探します。
  • ③ 備考欄の自由記述を解釈する 「至急」「午前中希望」「前回と同じ仕様で」。これまで人が読んで頭の中で処理していた文章を、「希望納期:翌営業日午前」のような扱える形に変換します。
  • ④ 判断に迷った箇所を、明示する すべてを断定するのではなく、「この行は確信度が低い」「候補が2つあって決められない」と印を付けます。人はその箇所だけを見ればよいので、確認の手間が全行から数行に減ります。
できなかった理由と、第三世代AIができることの対応
これまでできなかった理由第三世代AIができること
取引先ごとに書式が違い、型を作らないと読めなかった(理由①)① 型を教えなくても読める。数千社分の設定が不要になる
「Wの大」の翻訳が、ベテランの記憶に頼っていた(理由②)② マスタと履歴を参照して特定する。記憶ではなくデータで翻訳する
「至急」「前回同様」の解釈が、人の頭の中にあった(理由②)③ 自由記述を解釈する。備考欄が構造化される
読み取った結果を、結局すべて人が見直していた④ 迷った箇所を明示する。確認は全行から数行に減る

特に効くのは「翻訳」の工程

受注担当者が注文書1件を処理する時間を分解すると、最も大きいのは「入力」ではありません。

受注1件あたりの作業時間の内訳(製造業・卸売業の受注担当者への調査値。1件あたり合計約10分)
作業時間割合内容
読み取り約2.0分20%手書き、かすれ、傾きの解読
翻訳(名寄せ)約2.7分27%取引先の呼び方を自社品番に変換する
判断約1.8分18%単位の換算、「至急」の解釈、代替品の可否
入力約2.3分23%基幹システムへの登録
確認約1.2分12%単価、与信、納期のチェック

第二世代までのAI(OCR・AI-OCR)が解いたのは、「読み取り」の2分だった

第二世代までのAIが解いたのは「読み取り」の約2分、全体の2割でした。読めるようになっても、その後の翻訳と判断は人が続けていた。だから工数は思ったほど減らなかった。

なぜ「いま」取り組むべきなのか

受注業務の自動化には、2つの条件が必要でした。「やらなければならない」という必要性と、「技術的にできる」という可能性です。

2つの条件がそろったタイミング
条件中身これまでの状況
必要性人を確保し続けるのが難しいずっと高かった。しかし打ち手がなかった
可能性型を作らずに、読んで、翻訳して、判断できる第三世代以降、初めて実用の水準に来た

必要性は、ずっと高かった

人手不足は、年々深刻になっています。理由②で見たとおり、受注業務は取引先ごとの癖と暗黙知を覚えなければ一人前になれず、独り立ちまでに半年以上かかる。一方で退職の予告は1ヶ月ほどで来る。育成にかけた時間は、その人が辞めた瞬間に消えます。

採用しても同じことの繰り返しです。採用コストと教育コストが構造的にかさみ続け、しかも「この取引先の書式はあの人しか処理できない」という属人化は、休職や退職がそのまま出荷の遅れにつながるリスクを抱え込むことでもあります。

必要性はずっと切実でした。しかしEDIもRPAもAI-OCRも、件数の6割を占めるロングテールには届かなかった。

インパクトも大きい

受注1件あたり約10分のうち、これまで手が届かなかった「翻訳」と「判断」の約4.5分が、まとめて自動化の対象になります。しかも受注業務は毎営業日、取引先の数だけ発生する業務です。1件あたりの短縮が小さく見えても、日次と社数で積み上がるため、他の事務の自動化とは効果の桁が違います。

正解を知っている人が、まだ社内にいる

もうひとつ、いま着手することに固有の意味があります。「Wの大」がどの品番かを知っているベテランが、まだ社内にいることです。AIに正解を教えるにも、出力を検証するにも、正解を知っている人が必要です。その人が退職した後では、手遅れです。

まとめ

AIは「やり方を教える」から「内容を理解する」、そして「仕事を任せる」段階へ進化しました。受注業務が自動化できなかった2つの理由は、その進化でそれぞれ対応できるようになりました。そして人手不足と属人化は、待ったなしの状況です。

本シリーズでは、次回から具体的な進め方を扱います。まず「自社の受注業務の現状を、どう測るか」から始めます。

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